優先順位が混乱する・計画が立てられない
優先順位が混乱する・計画が立てられない
こちらのページをご覧の方は、注意欠陥多動症(ADHD)について興味をお持ちだと思います。そして、すでにADHDについて色々調べていらっしゃるかも知れませんね。成人期ADHDがまだ世の中に十分知られていなかった頃は、ご本人の自己申告の通りにADHDである患者さんは少なかったですが、現在は自己診断の正答率がかなり上がっている印象を持ちます。これは神経発達症治療に取り組む精神科医同士でも意見が一致しています。しかし、そうは言っても診断は難しいものですし、比較的容易に診断をつけられそうであってもなお慎重でなければいけません。なぜなら、ADHD治療に用いる薬剤は脳に影響を与える薬だからです。本来想定されるADHDの脳病態でなければ薬は有益なものになりません。例えば、ADHDに見せかけて自閉スペクトラム症(ASD)のこともありますし、うつ病や双極症の病状のため結果的にADHDのような振る舞いになってしまうこともあります。そのため、これらに誤ってADHD治療を行うリスクを熟知している必要があるのです。
当院院長は、2012年に成人期ADHDへの薬物療法が始まったと同時にこの治療に取り組んでおり、十分な経験と知識を有しております。適正な診断・治療を心がけて成人期ADHDに向き合い、たくさんの患者さん方と関わってきました。安心してご相談ください。
優先順位の混乱や計画を立てられないという症状は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)によく見られる特徴です。ADHDは、主に注意力の欠如、多動性、衝動性を特徴とする発達障害であり、特に計画の立案や実行、優先順位をつけるといった「実行機能」に困難さを抱えることが多いです。
ADHDの人は、以下のようなお悩みを抱えることがあります。
・優先順位をつけるのが難しく、どの作業から始めるべきか分からない。
・長期的な計画を立てるのが苦手で、予定が立てられなかったり、立てても実行に移すのが難しい。
・途中で他のことに気を取られてしまい、元の作業を完了できない。
・物事を後回しにしてしまう(先延ばしにする)。
・日常的なタスクの管理が難しく、忘れ物や遅刻が頻発する。
・カッとしやすい、イライラしやすい
・会話に割り込む、話終わりに言葉を被せてしまう。
・よく考えずに仕事を引き受けてしまう。
これらのお悩みは、仕事や学校のパフォーマンスに大きな影響を与え、人間関係や社会生活においてもトラブルを引き起こすことがあります。ADHDの診断は、成人になってから行われることも多く、その場合「子どもの頃からあったが、大人になってからもっと困難さを自覚するようになった」というケースも少なくありません。
成人期ADHDの治療には、主に薬物療法と心理療法が用いられます。薬物療法では、メチルフェニデートやアトモキセチン、インチュニブなどの薬剤が使用され、ADHD症状を改善するエビデンスデータがあります。一方、非薬物療法も大切です。環境調整やメモやスマホの活用などの一般的なものから、対応可能施設での社会スキルトレーニング(SST)や認知行動療法(CBT)、デイケアプログラムなどがあります。
ASD、計画性やタスク忘れ、ケアレスミスや忘れものなどの症状の原因になることがあります。自閉スペクトラム症は、コミュニケーションや社会的な相互作用の困難さ、また興味や行動の限定されたパターンを特徴とする発達障害ですが、興味関心が薄いタスクには集中できにくいためADHDと紛らわしくなることもあります。
自閉スペクトラム症の特徴的な行動の一つとして、ルーチンや決まりごとに強くこだわることが挙げられます。このため、予定が変更されたり、計画が思うように進まなかった場合に強い不安や混乱を感じやすく、イライラしてしまうこともあります。また、ASDの人は、長期的な目標を持つことや、状況に応じて計画を調整することが難しいことが多いです。
自閉スペクトラム症の治療には、特定の薬剤を用いるわけではありません。薬物療法は困りごとに合わせて対症的に行うことが多いです。中等度から重度のASD特性の場合は、心理教育や社会的スキルトレーニングをデイケア施設などの集団プログラムを行う必要があります。
一方、軽度から一般に言うASDグレーゾーンの方々については、普段仕事に就いている方も多くいらっしゃるため、主に平日の日中に行われる集団プログラムへの参加が現実的ではないことが多いです。それでもお困りで治療を求めている方々に、当院院長は通院治療でできる試みを続けてきました。
まず大事なのは心理教育です。ASD特性についても様々な仮説があり、診断基準にあるような社会性・社交性・想像力・こだわり・過敏さなどの項目だけでは実際の困りごとを把握しきれません。中性統合仮説にみられる中枢性統合や共同注意という観点でみないとASD特性は理解しにくいです。ここでは詳しく説明いたしませんが、当院ではなるべくその内容について説明する時間を確保して心理教育を行い、その補助に役立つ薬物療法(主に漢方)を提案するようにしています。そのため、お困りの方は気軽にご相談いただきたいと思います。
双極性障害とADHDはどちらからみても20%併存すると全米研究の指摘があり、関連が深い疾患です。脳中のドパミンやノルエピネフリンの分泌レベルが大きく変動するところに共通点が指摘されています。
双極症は気分の変動を特徴とする精神疾患であり、気分が高揚する「躁状態」と、気分が沈む「抑うつ状態」が現れます。特に躁状態においては、優先順位が混乱したり、計画を無計画に進める傾向が見られるためADHDと紛らわしいことがあります。
躁状態では、以下のような症状が見られることがあります。
・自信過剰で、無謀な計画を立てる。
・複数のプロジェクトを同時に始めるが、どれも中途半端で終わる。
・衝動的な決断を下し、後から問題になる。
・他人のアドバイスを無視して、自分の考えに固執する。
一方、抑うつ状態では、計画を立てること自体が難しくなり、無気力感や集中力の低下により、計画を実行できないことが多くなります。このように、双極性障害では気分の変動に伴って、優先順位や計画の立て方が大きく影響を受けることがあります。
双極性障害の治療には、気分安定薬(リチウムやバルプロ酸)や抗精神病薬、抗うつ薬が使用されます。さらに、認知行動療法(CBT)や家族療法を組み合わせて治療を行うことが推奨されます。
ADHDと併存している場合は、ADHD治療薬を慎重に選択する必要があります。